あかしや橋のあやかし商店街
 玄関の鍵を開け、菖蒲を家の中に入れる。そして、二階に続く階段をのぼり、自分の部屋へと招き入れた。
 真司の部屋は普段から掃除をしているのか、とてもきれいだった。ダークグレーのL字デスクは、部屋に入って左手奥に設置され、デスクに付いているラックには真司が読んでいるファンタジー小説や参考書が並んでいる。デスクの反対側の壁にはベッドがあり、部屋の中央には折り畳み式の小さな四角いテーブルが置かれている。壁には、ラックに収まりきらなかった本が並ぶ本棚と、映画鑑賞をするためのブルーレイプレイヤーとテレビがある。全体的に子供っぽさがなく、成人してからも使えるような部屋だった。

「座布団とかないですけど、好きなところで寛いでいてください。それじゃ、今持ってきますね」
「うむ」

 階段を下りると、真司は庭に面したリビングから外に出る。
 庭の隅には大きな物置があった。中には、母親が大事にしている物や父親の釣り道具の他に、菖蒲の家で見たような壺や古い着物などもしまわれている。両親はこれらをどこから集めてきたのか、不思議に思うほどいろいろな物が置いてある。
 真司は、奥の棚にある掛け軸を手にして再び自分の部屋へと戻った。

「お待たせしまし……って、なにをしているんですか!?」

 部屋の扉を開けると、真司は目の前の光景に驚き、手に持っていた掛け軸を落としそうになる。
 真司が目にしたもの、それは、菖蒲が犬が伏せをしているみたいな格好でベッドの下を覗き込んでいる姿だった。
 菖蒲は、その格好のまま真司に顔だけを向けた。その表情は、なにが変なのかわからないといったような顔だった。

「む? ふむ、見ての通りやの」
「はい!?」
「うむ、最近の若者はベッドの下にイヤラシイ物を隠しておると、〝お雪〟から聞いてのぉ。せっかくやし、確かめようと思って」

 真司は頭痛がしてきたのか、眼鏡を少しあげ眉間を軽く揉むと溜め息を吐いた。

「菖蒲さん……普通は、そんなところにありませんよ……」
「なんじゃ、そうなのかえ? つまらんのぉ~」
「それに、そもそも、そんな物僕の部屋にはありません」
「な、なんと!?」
「その……そういうのは、少し……僕には早いかと……」

 真司は目線を菖蒲から逸らし、頬を掻く。ほんのりと赤く染っている耳を見ると、どうやら恥ずかしいらしい。そんな真司の姿を見て、菖蒲は着物の袖を口元に当てクスクスと笑った。

「おやまぁ。ふふふ、お前さんは初心やの」
「…………」

 さらに恥ずかしくなり俯く真司は、菖蒲になにも言い返せなかった。イヤラシイ本はともかく、初心なのには自覚があったからだ。

 ――まったく、そのとおりです……うぅ……。
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