刹那で彼方
屋上にいる彼は、ビクビクした様子で下を見下ろしている。
そんな様子を見ながら俺の隣にいる男は舌打ちをした。
「だー!お前もう怖がる必要ねーだろーが!」
「やっ……やっぱり怖いんですよ!だって飛び降りですよ!?」
「それはお前の魂に刻まれた意識の潜在的な防衛反応なんだよ!
しかぁもっ!いつまでもそうやって怖がってるとお前の未練は晴れず、結局ここに留まって意識が消えるのを待つだけになるんだぞ?
俺だって寝ずに長ったらしい報告書という名の反省文をかかされなきゃならなくなる……。
ここはお互い分かり合ってだなー……」
話の内容はまったくもって意味がわからず首を傾げてしまうが、結果的に自殺を促していることには変わりないのだろう。
周りを見回しても誰もいないため止められるのは俺だけ。
ただこれが現実ならば、という話だが。
にしても、もしこの光景が幻だとしたら俺はどれだけ酔っているんだ?
確かに現実味はないから幻ともとれる。だがちょっと光景がはっきりしすぎな気もしないでもない。