刹那で彼方
まぁともあれ、幻だろうが現実だろうがどちらにせよ、こんな風にちんたらと考えていては屋上の彼は飛び降り、まさに自殺が成立してしまうかもしれない。
そうなった場合考えられるのが二つのパターン。
一つは俺がその後でこの自殺を促した男から見つかってしまい、命を奪われてしまうという展開。
二つ目は彼が自殺した後、この男に見つかる前に他の目撃者に見つかり共犯に仕立て上げられ、警察に連行という展開。
まぁ、どちらにしても最悪なパターンなわけだ。
そうなると、一番自分に被害がなく、これからも平穏無事で過ごすためには…
(見捨てるしかない…よな。)
だがやはり俺にも良心というのがあるわけで。自殺をしようとしている人を止めないというのは正直かなり胸が痛い。ただそう考えて口を出せば、むしろ自分が命を失ってしまう可能性だってあるわけだし。
ただこれが俺の酔いによる幻覚だという場合ならば嫌な場面を見ずに済むし、自分も命を落とす可能性もない。
(ってちょっと待てよ…?)
ならばそれもそれでわざわざ話しかけて相手する必要もないじゃないか。所詮は全て夢、実際にはこんなことは起きていないのだから。
(やめた。帰ろ)
結局そう判断した俺は自分の酔い加減に若干呆れながら、元来た道に戻ろうときびすを返した。