カラフル
「んとねー……、あ! そういえば少し前に、超イケメンが来店したって騒いでたよ! 土師のことっしょ!」


ガチャ。と、扉を開けた瞬間。ふたりはほぼ同時にこちらを見た。
順は定位置で寝ていて、そのそばで女性が膝を折って座っている。


「あ、帰ってきた。おかえりー」
「ちょっと土師っちー、彼女夜まで帰ってこないって言ったじゃん!」


膨れたような声で言ったその女性はちょっと化粧は濃いもののとても綺麗で、髪は金に近い色で綺麗に巻かれ、発色のいい真っ赤なニットを着ていた。

わたしが呆然としているうちにすくっと立ち上がる。黒いミニスカートで寒そうだった。


「あ、このコタツ、処分に困ってたから引き取ってくれて助かったわ」


ヒョウ柄のボアのパーカーを羽織って、髪をかき上げると立ち尽くすわたしに平然と言う。


「じゃあ帰るね、土師っち」
「おー。サンキューな」


ひょこっと頭を起こした順は、ただ軽く手を挙げた。

女性はじろじろと不躾にわたしを横目で見ながら真横を通り、玄関でパンプスに爪先を滑り込ませた。
強い香水の匂いがした。


「どーも、お邪魔様」
「……は、はぁ……」


気が抜けて、ほとんど息だけの声が出た。

状況がよく飲み込めないまま振り向くと、彼女は姿勢良く、こちらを真っ直ぐに見据えていた。


「……土師っち、あなたみたいな人に拾って貰えてよかったね。」
「えっ……」
「まあ、本音言えば、あんなに飲んだくれで荒れてる土師っちをあたしがどうにかしてあげたかったけど。……じゃ」


強烈な捨て台詞。
手にしていた、お菓子が入ったビニール袋が床に落下。
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