カラフル
大きなエビフライが人気のお店で、割と混んでいた。
テキパキ動く店員さんが、すぐに案内してくれた。


「予約した奥瀬です」


他人になりすますのはきまりが悪い。

奥の、個室っぽく仕切られた、照明が暗めの席に通された。


「はぁ……」


食器が二人分用意されている。
途端に逃げ出したくなった。

順が、よくわかんない女を勝手に家に入れたからって、当て付けみたいにこんなことしてもう、後悔してる。

膝を合わせて姿勢良く座るのは疲れる。
ただでさえ連勤中で、体も重い。
ああ、早く帰りたい。コタツでぬくまりたい。

順に、会いたい。


「篠上奈津美さん?」


うなだれていたら頭上から、男性の声がした。
はっとして顔を上げる。

目の前にはひょろっとした四十代くらいの男性が立っている。額が広く、細い髪の毛が少なく、細い目に、細いフレームの眼鏡。全体的に薄いイメージ。
眼鏡の奥のかんじがまあ、奥瀬さんに似てる、かな。


「はい……」
「母から事情は聞いてます。強引だったでしょう、申し訳ない」
「い、いえ……」
「いつも母がお世話になって、ありがとうございます」


思ったより常識的な感じだったから、わたしはほんのちょっぴりホッとした。

奥瀬さんの息子、優造さんは適当にお薦めをオーダーしてくれて、ワインも選んでくれた。

メインのエビフライはぷりっぷりですごく美味しかった。
わたしだけこんないいものを食べて、順に悪いなって思ったら胸がちくりと傷んだ。
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