カラフル
「篠上さんは、お幾つですか」
「今年三十になります」
「ああ、そうなんだ。じゃあ一回り以上違うね」


落ち着いた口調で優造さんは言った。

奥瀬さんは奥手で慎重、なんて言ってたけど、普通に女性慣れしてる感じだった。
スーツ姿の男性を前にすると、なんか上司って感じで、懐かしくもあった。

思い出したくもないけども。


「えっと、篠上さんは以前太陽商事にお勤めだったんだよね? 総合職?」
「えっ……」


ワイングラスに伸ばしかけた手が止まる。


「母から聞いてね。前に篠上さんから聞いたって言ってたけど」
「は、はぁ」


言ったかな?
言ってない、と思う。

だってもう。


『聞いた? 篠上チーフ辞めるって』
『上司を脅したんでしょ? 二股だとかなんとか騒いで。当然だよね』
『そんなに結婚したかったのかな。信じられない』


消したい過去だし。


「……の……ん? 聞いてる? 篠上さん」
「えっ、あ、はい!」
「大学もいいとこ出てて、ご実家もちゃんとしてて。どうして今、清掃員を?」
「っ、」


あれ?
話してない。

大学なんて。実家のことなんて、職場で知り合った人にペラペラ話した覚えはない。

奥瀬さん……もしかしてわたしのこと、調べた?
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