カラフル
「まあ、あの、ご縁があって。やりたい仕事でもあったので、転職しまして……」
「けど、あの太陽商事を辞めるなんて、ほんと勿体無いことしたよね」


優造さんはレンズの奥の瞳を細め、クイッと口角を上げた。


「そんなに結婚焦ってるなら、逆に辞めない方が良かったと思うよ。うちの若い女子社員たちも、結婚相手探しに社内恋愛してる子多いし」
「……」


結婚、焦ってる……?
そんなこと、言ってないんだけど。

すっかり食欲がなくなってわたしはナイフとフォークを置いた。


「で、どうして辞めたの? 大手で安泰じゃない。」
「……いろいろ、ありまして」
「いろいろ? うちも太陽商事とはかねてから取引があってね。いい会社だよ。人も良くて」
「は、はぁ」
「それなのに、まあ最近はすぐ辞めたがる若い子も多いけど……あ。」


膝に手をグーにして置いて、俯いたときだった。


「ちょっと待って、えっと、しのがみ……?」


確かめるように言った。
口をぱっくり開けた優造さんが無表情で、頭をフル回転させている顔を上目遣いにちらりと見る。


「篠上さんって、もしかして、あの?」


語尾を強めた相手は徐々に頬の筋肉を綻ばせ、不敵な笑みを浮かべる。

わたしの鼓動が速まった。


「いやいやいや、まさかとは思ったけど」


目を泳がせるわたしを見て、合点がいった様子で、優造さんはははっと声高らかに笑った。
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