カラフル
「実は岩間部長とは付き合いがあってね。君の噂はよく聞いていたよ」
「っ……」


肩が強張る。
胸の奥がひんやりした。


「へえ、君があの、上司の結婚を邪魔しようとした……」


ニヤニヤと気色の悪い目つきで、わたしを観察するように見る。最初に会ったときのまともそうな印象はガタガタと崩れる。

居心地が悪いどころじゃない。
もう消えてなくなりたい。

このまま、存在自体。
この世から消えてしまえればいいのに。


「ん? なんだ君は」


肩を小さくして、両目をキツく瞑っていたら、前方から優造さんの硬質な声がした。

間接照明が遮られて暗くなる。わたしは真隣の人影に気づく。
恐る恐る、辿るように目線を上げた。


「奈津美、帰るぞ」


う、そ……。

稲妻みたいな衝撃。
鳥肌が立った。

幻なんじゃないか、って思って、瞬きできなかった。次の瞬間にはもう、シャボン玉みたいに弾けて消えてそうで。


「えーと、これは。どういうことです? 篠上さん」


立ち上がった優造さんが怖い顔で、順に一歩間合いを詰めた。


「こちらの男性は? お知り合いですか?」
「俺ら一緒に住んでるんです。彼女がほかの野郎と食事してて、心配しないわけないでしょう?」


普段の間延びしたものとは違うスマートな声で、順はふてぶてしいくらい泰然とした態度でそう言った。
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