カラフル
「……へえ、噂通りだったってことか」


ニヒルに笑った優造さんは、順に肩を支えられて立ち上がったわたしに言った。


「結婚したいしたい言ってる、ただの男好きか」
「なんだそれ、取り消せ」


怒り滲ませた低い声。
こんな風な、真剣な面差しの順は、見たことがない。


「なぜ? 俺は本当のことを言ったまでだ」


そこでぷつんとなにかが切れたように、順は勢いよく優造さんに掴みかかった。


「人の女、侮辱すんな。クソ野郎」


突然の強引さに驚いて、面食らった優造さんは顔を引きつらせて仰け反るばかり。

優造さんの体は半分くらい持ち上がって、両手が操り人形みたくぶらーんてなってた。
順の、いつも怠けてる体のどこにそんな力が隠れているのか謎だった。

優造さんを見下ろす順の目は、なんて表現したらいいかわからないんだけど黒目はより黒く、まるでこの世の果てのような救いようのない暗い色をしていた。

もうやめて、というか細い声が、わたしの口からようやく突いて出た。


「ぅあー、さみー」


それから放心する優造さんを放置して、わたしたちはレストランを出た。


「鍋でも食いてーな」


ひとりごちて、順はコートのポケットにおざなりに両手を突っ込んで歩く。
猫背になって、変調子なリズムで。
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