カラフル
わたしは無言で順の脇腹と腕の間に手を刷り込ませ、ぎゅっと抱きついた。
きろ、っと眼球を動かして横顔を盗み見ると、相手はふっと微笑んだ。

ほんと仕方ねーやつだな、って、呆れられてるようで。
胸が軋んだ。

なんであのレストランにいたの?
順も、誰かとデートしてたのかな。夜の世界のお友達、けっこう多いみたいだし。
それとも本命? って思ったら、もっともっと、心が痛かった。


「インスタントラーメンがある!」


アパートに帰って、食器棚を開けたらしょうゆ味がふたつ残ってた。


「卵入れると美味しいよね」


冷蔵庫を開けて卵を取り、扉越しに順と目を合わせる。順はなにも言わず、ただにっこりとした。


「確かここに、鍋を仕舞ったような……ずっと使ってなかったけど」


わたしは背伸びして、台所の上の棚に手を伸ばした。
暗くてよく見えないので闇雲に手を動かすと、ホーローの鍋が見つかった。


「よいしょ、っと」


流しで洗おうとして、気がついた。これってこんな色だったっけ? と。

ホーロー鍋は一人暮らしするときに実家から貰って来たもので、お母さんがよく使ってたけどそのときは白に近い、ベージュっぽい、生成りっぽい感じの色だった気がする。

けど、久々に見たそれは、薄く濁った柿色のような汚れに満ちている。
なかも周りも油汚れや焦げた跡がひどく、鍋全体がくすんでいる。
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