カラフル
「いいかな? 蓋開けても」


コタツで真向きに座った順が、わくわくした子どもみたいな顔でわたしを見る。


「いいよ、でも気をつ」


気をつけて、蓋の持つとこ壊れてるから。って、言おうとしたんだけど。


「げ! 取れた!」


案の定な結果に。

え、なにこれ、と、壊れた取っ手を持ち慌てる順に割り箸を手渡し、わたしは布巾を両手にひとつずつ持った。

擦りすぎて傷ついた鍋を押さえ、反対の手で熱々の蓋をなんとか、回したり傾けたりして開けた。


「おー、うまそ!」


ふたりの間に湯気がいっぱいに広がる。
わたしは順の分をお椀によそってあげた。

かすみがかった視界がクリアになり、「さんきゅ」ふんわり笑う順がくっきりと、鮮やかに見えた。


「割れ鍋に綴じ蓋って、俺らにぴったりだね」


ずずっと麺をすすり、順が言う。

鼻の奥がとして、わたしはきょろきょろティッシュを探す。
すると向かいから、箱ごとテーブルを滑ってこちらにやってきた。


「……ありがと」
「ん」


本当に意味分かって言ってんのかな?

わたしは結婚もダメになって、仕事も辞めて。
マンションも引き払って、親には諦められて。

キツいことたくさんあったけど、半年前はこんな風に、ぬくぬくコタツで温まりながら煮込みラーメンを食べるなんて幸せ、想像もしなかったな。

順と過ごす時間は確かに存在するのに、どこか所在なさげで心許ない。
順の素性もわたしたちの関係も、ことさらはっきりしない。

けど。

わたしは今、この温もりに生かされている。



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