カラフル
今の仕事は不安定ではあるけど、合ってると思う。
汚れを落とせば過去の黒歴史も消されてくように錯覚するって動機は不純かもだけど。


「できることなら、ずっと働きたいかな」


順が手に持ってるパックを取り、籠に入れたときだった。


「うわ! 篠上さん‼︎」


斜め後ろから甲高い声がした。
聞き覚え、ばっちりある。氷野ちゃんだった。


「第一声が、うわ! って……」


なんか傷つく。
会いたくなかった、ってな反応な気がしてわたしは落ち込んだ。

こちらが戦慄するほど目をギョッと見開いた氷野ちゃんは、わたしではなく隣の順を見ていた。


「こんにちは」
「ひっ……」


順が会釈するも、両手で口元を覆った氷野ちゃんは微動だにせず。
おーい息してる?

なんだか様子がおかしいので心配だったけど、氷野ちゃんはペコリと一礼して後ずさり気味に去ってった。

買い物を終え、夕刻のお客さんで賑わう商店街を並んで歩く。
鍋は寄せ鍋の素を買った。エビとタラを入れるのが楽しみ。

長い影がふたつ、アスファルトに伸びる。
買い物バッグを持ってない方の手を繋ぎながら歩いていると、アパートが見えてきた。

着いたらまず初めに、エビの殻を剥いて、白菜を切って……と、鼻歌交じりで考えていたら。

ボロアパートの前に立っていた女の人が、わたしたちふたりの登場にハッとして、こちらを見た。
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