カラフル



「篠上さんのニート彼氏、イケメンすぎません⁉︎」


今日の現場から戻ってきた矢先、氷野ちゃんに捕まった。


「あんなイケメンならニートでもいいですよね!」
「……」
「っていうか、元々なんの仕事してたんですか? もしかして、俳優とかモデルとか、そういうんじゃないんですか?」
「さぁ……」


よく知らない。聞いたことない。

ぼんやりとした頭で、昨日スーパーで会ったときの氷野ちゃんの反応は順の容姿に驚いたからだったのか、と気づいた。


「お幾つなんですか? どこで知り合ったんですか⁉︎」
「うーんと……」


ロッカーに移動するわたしと、ぴょんぴょん跳ねながらついてくる氷野ちゃんとのテンションの温度差が激しい。
着替えるから、と言ったらやっと解放してくれた。

引っ越しの時期なので、事務所は今日も忙しい。
ちょうど帰るとき、タイミングよく所長が電話が終わったので、わたしはおずおずと駆け寄った。


「あの所長……」
「あ、奈津美ちゃん。今日もお疲れ様」


いつもの菩薩みたいな満面の笑みで、所長は穏やかに言った。


「先日は、奥瀬さんの件で……あの、息子さんとのことで、」
「ああ、その件なら奥瀬さんの方から申し訳なかったと連絡があったよ」
「え?」
「お付き合いされてる方がいるなら、もうあの話は無かったことにしてくれと」
「は、はあ……」


こっちから願い下げだ。
本当は息子の所業を憎々しい顔で叫んでやりたいけど、もういい。
もうあんなのに関わりたくもないし、それに順が、あのときレストランに来てくれて。嬉しかったから。
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