カラフル
「あたし、ひかるです」
わたしが落ち着くのを根気よく待ってくれたひかるさんは、歩調を合わせて歩きながら言った。
「し、篠上奈津美、です」
「土師さんとは、前に働いてた飲み屋で知り合ったんだ。接待によく使ってくれてて」
「そう、なんですか」
鼻声で答えるわたしを見て、ひかるさんはふっと笑う。
「あたし今度、引っ越すことになって。子ども連れて田舎に帰んの」
「こ、子ども?」
「うん、シングル」
「そう、なんだ……」
若そうだけど、いくつくらいなんだろう?
と思って、整った横顔を見ていたわたしに、ひかるさんは神妙な声で言った。
「何度も口説いてんだけど全然落ちてくれなかった。まったくなびかないの」
「、へ」
「特定の彼女はいないって言ってたけど。きっと心に決めた人がいるんだろうなって思ってたよ」
「……」
「半年前、けっこう荒れてたよね。飲み屋で潰れてるとこよく見ててさ。なにがあったかは、知らないけど」
半年前。
ちょうどそう、このくらいの時間だった。わたしと順が出会ったのは。
「なのにあなたと知り合って、あっけなくくっついちゃって」
アパートが見えてきて、部屋を見上げたひかるさんは笑いを帯びた声で言った。
「今日はお別れ言いに来たんだ。こないだ来たときも、最後の悪あがきじゃないけど……だって、あんなカッコいい人なかなかいないじゃん⁉︎」
言い訳みたいに言って、ひかるさんは足を止めた。
「でも、言ってたよ。〝ここがすげー気に入ってる〟って」
そして閉口するわたしと、真剣な眼差しで向き合った。
「だから、信じたら? 土師っちのこと」
わたしが落ち着くのを根気よく待ってくれたひかるさんは、歩調を合わせて歩きながら言った。
「し、篠上奈津美、です」
「土師さんとは、前に働いてた飲み屋で知り合ったんだ。接待によく使ってくれてて」
「そう、なんですか」
鼻声で答えるわたしを見て、ひかるさんはふっと笑う。
「あたし今度、引っ越すことになって。子ども連れて田舎に帰んの」
「こ、子ども?」
「うん、シングル」
「そう、なんだ……」
若そうだけど、いくつくらいなんだろう?
と思って、整った横顔を見ていたわたしに、ひかるさんは神妙な声で言った。
「何度も口説いてんだけど全然落ちてくれなかった。まったくなびかないの」
「、へ」
「特定の彼女はいないって言ってたけど。きっと心に決めた人がいるんだろうなって思ってたよ」
「……」
「半年前、けっこう荒れてたよね。飲み屋で潰れてるとこよく見ててさ。なにがあったかは、知らないけど」
半年前。
ちょうどそう、このくらいの時間だった。わたしと順が出会ったのは。
「なのにあなたと知り合って、あっけなくくっついちゃって」
アパートが見えてきて、部屋を見上げたひかるさんは笑いを帯びた声で言った。
「今日はお別れ言いに来たんだ。こないだ来たときも、最後の悪あがきじゃないけど……だって、あんなカッコいい人なかなかいないじゃん⁉︎」
言い訳みたいに言って、ひかるさんは足を止めた。
「でも、言ってたよ。〝ここがすげー気に入ってる〟って」
そして閉口するわたしと、真剣な眼差しで向き合った。
「だから、信じたら? 土師っちのこと」