カラフル
階段の、禿げたタイルばっか見てたわたしは、ゆっくりと緩慢な速度で顔を上げる。
「遅かったな、仕事忙しかった?」
ドアに寄りかかって立ってた順は、よっと背中に勢いをつけて一歩こっちに寄った。
わたしは目をしばたかせる。
幻じゃないよね、って。神さまに聞く。
「奈津? なんか目、赤くね?」
腰を屈めた順は小首を傾げ、わたしの顔を覗き込んだ。
「鼻も赤いね。寒かった?」
言い募りたいのはやまやまなんだけど、なんだかもう、胸がいっぱいで。
わたしは歩み寄ると、ぴったりとしがみついた。背中に両手を回して、胸に顔をうずめる。
「おかえり、順……」
コートは冷たかった。
いつから待ってくれてたのかな。
冷えた体が作用しあって、お互いを温めるために体温を上げようとする。
こんなにクセになる温もりに出会えるなんて、干し草の山から針を探すようなもんだと思ったんだ。
わたしにとっては。
「忘れ物、取りに来たの?」
だけど、順のためには。
もっと早く、こんなままごとみたいな関係に、終止符打たなきゃダメだったよね。
「忘れ物?」
掠れた声で順は反すうする。
「遅かったな、仕事忙しかった?」
ドアに寄りかかって立ってた順は、よっと背中に勢いをつけて一歩こっちに寄った。
わたしは目をしばたかせる。
幻じゃないよね、って。神さまに聞く。
「奈津? なんか目、赤くね?」
腰を屈めた順は小首を傾げ、わたしの顔を覗き込んだ。
「鼻も赤いね。寒かった?」
言い募りたいのはやまやまなんだけど、なんだかもう、胸がいっぱいで。
わたしは歩み寄ると、ぴったりとしがみついた。背中に両手を回して、胸に顔をうずめる。
「おかえり、順……」
コートは冷たかった。
いつから待ってくれてたのかな。
冷えた体が作用しあって、お互いを温めるために体温を上げようとする。
こんなにクセになる温もりに出会えるなんて、干し草の山から針を探すようなもんだと思ったんだ。
わたしにとっては。
「忘れ物、取りに来たの?」
だけど、順のためには。
もっと早く、こんなままごとみたいな関係に、終止符打たなきゃダメだったよね。
「忘れ物?」
掠れた声で順は反すうする。