カラフル
「え、え」


てっきりパソコンとか、荷物だけ取って帰るのかと思っていたわたしは、コタツで温まって居座る気満々な順を呆然と立ち尽くして見た。

そしたら、こっちの気持ちを汲み取ったのか。


「あの人、兄貴の奥さんなんだ」


青息をひとつ吐き、ぽつりと言った。


「え……」


奥さん? 兄貴?


「葉子。半年前に結婚したんだ。元々俺の友達、だったんだけど」


友達、ってとこに、躊躇いを感じた。

翳りのある順の瞳の奥に、彼女の面影が浮かぶ。
小柄で色白で、可愛らしくて。守ってあげたくなるような可憐な女性だった。


「兄貴は昔から好きなことだけして生きてるようないい加減な奴なんだ。いきなり葉子と結婚したかと思ったら家業全部俺に押しつけて同居してた実家出て海外行ってさ。将来性も明確なビジョンも無いから雰囲気惚れてた葉子もさすがに辟易したみたい。泣きつかれた」


半年前、飲んだくれて荒れてたのは。
葉子さんに失恋した、から?


「そ、それで……どう、なったの?」
「それだけ」


言下に答え、順はわたしの目を見た。
きっぱりと、揺るがずに。


「俺はもう、相談にも乗ってやれんし、頼られても困るって伝えた」
「……」
「で、すぐ別れた。あのまま」


平淡な口調で言い、すっと手を伸ばす。
棒立ち状態のわたしの手首を握り、引き寄せた。


「__!」


体に力が、全然入ってなかったから。
容易くわたしの体は、順の方に持ってかれる。


「ちょっと会わないだけで、奈津が足りなくて足りなくてもう」


きゅうきゅうとした言い方で、ヘッドロックかますみたいな不器用な体勢で、順はわたしをぎゅうっと抱きしめる。
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