カラフル
「あの、じゃあ、さ、」


苦しいので首を左右に振り、くぐもった声でわたしは聞いた。「昨日、どこ行ってたの?」葉子さんと一緒にいたんじゃないのなら。


「うーんと。」


体を離した順は演技っぽく、斜め上の宙を眺める、という古典的な惚け方をした。


「仕事、が。」
「決まったの?」
「いや、決まったっつーか。……やってたんだ、ずっと」
「へ?」
「俺、奈津が仕事行ってる間、会社行ってた」


へ?

会社?


「は、は、は、はあーーー⁉︎」


自分の声のデカさに、自分の耳が驚いてキャパオーバーでキーンてなるなんて経験、初めて。


「し、仕事ってなに! どういうこと⁉︎」
「実は最近忙しくてさぁ、書き入れ時で。」
「書き入れ、って……なんの仕事」
「不動産屋。奈津の」
「は⁉︎ どど、どういうことよっ」


順のパーカーの首回りを両手でがっしり掴む。前後に首がかくかくなった。


「どう、って……あそこ、うちの親父がやってる会社なんだよ。元々じいちゃんが始めて、今はもうほぼ隠居状態、趣味で雇われ所長」
「え……?」


到底信じがたい順の言葉をひとつずつ、順序立てて整理してゆく。

あそこ、って。
けっこうおっきな不動産屋だけども。そこが順の実家で?

おじいさんが雇われ所長、ってことは……。
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