カラフル
「だから俺もけっこう融通きいて仕事持ち帰ったりとかして自由にやれてて。でね、まあ、じいちゃんから聞いて、奈津が何時に仕事終わるかとか知ってたから先回りしてー、ちょちょいっと」
「ニート装って部屋でだらだらしてた、って?」
「うん」


悪びれもせず、順はにっこり頷いた。
なんだこの白けるリアクションは!


「奥瀬とかいう顧客の息子のことも。じいちゃんから聞いた」
「え!」
「レストラン」
「……」


えっ……
所長までグル?


『奈津美ちゃんは本当にいいお嬢さんだね。嬉しいよ』


あれってなんか、従業員に対して以外の意味とかあったりする?


「……なんで、話してくれなかったの?」


震える声で言いながら手を離すと、順は頭をゆらゆらさせた。

風采が上がらないキャラの順が、おっきな会社の息子さん、だなんて。
そんなことおくびにもださず、よくもまあ半年間演じ切ってくれたよね。

わたしに黙って。
ひどいよ。


「とんだ茶番だな!」
「だ、だだだって! 初めて会ったとき、奈津がすげー仕事に熱心でさ。なんか、曲がりなりにも直属のじゃないけど。上司だ、なんて言えなくて。恥ずくて」
「は、恥ず……?」
「これってもしかして公私混同? パワハラってやつ⁉︎ とか思ったらますます、言い出すきっかけが掴めなくってさ。俺だってけっこう悩んでたんだって!」


ムスッと膨れて言った順は、座布団を二つ折りにして枕にした。
ふて寝、ってやつだ。


「なんでそっちが怒ってんの⁉︎」
「別に怒ってねーし。眠いだけだし」
「は? 反抗期かよ」


声に呆れを滲ませて、不意に思った。


「眠い、って。昨日はどこで寝たの?」
「へ?」


声が裏返る。
わかりやすくおどおどしながら、順はムクッと半身を起こした。
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