カラフル
「俺……この下に住んでんだよね」
え?
この、下?
『ここ、なんで鍵かかってんの』
「ちょうど前の住人が退去したばっかで空いてるし、会社近いし。実家にあんま、居たくなくて」
は?
じゃ、じゃあ、
『ここ、誰も住んでません』
『いや、そんなはずは……』
『ほんとです。空き家ですよ』
『いや、でも』
あのやりとりは? なんだったのよ!
ぽりっと頭を掻いた順は、口を半開きにして放心するわたしを、上目遣いでちらりと見た。
「まあそんな、のっぴきならない? 事情で?」
なぜに半疑問形?
それに。
『まじ? 挨拶に来ねーな』
とか言ってたじゃん!
なんだよ、あれ。
まじ白白しいな!
「じ。自分ちだったのかよ! 厄介な酔っ払いだな!」
「いやいやいや、あの頃ちょっと落ち込んでて飲み過ぎたのはたしかだけど、じいちゃんが鍵開けて荷物も運んどいたから勝手に使えっつーからそのつもりでだな!」
「……」
「奈津、聞いてる? おい無視すんな!」
ちょっとまだどう受け止めたらいいのかよくわからないから、一週間くらいシカトしとこうかな。
なぁんてよぎったけど、やめといた。
だって、なんかいろいろ胸のすく思いだったから。
それに嬉しくて。
順が近くに、すぐそばにいてくれるから、さ。
手を伸ばしてみたかった。
「わたし」
俯いていた顔をじりじり上げる。
昭和レトロなボロアパートと、薄いグレーの用足りないかけ布団と、ひかるさんのお古のコタツと。
「順のことが、好きなんだ」
穏やかに息を整えて言ったら、やたら得心顔の順の表情がとても明るく、鮮やかに見えた。
今までくすんでた視界が、まるで星が降ってきたみたいにキラキラと、輝いて。
わたしの世界がカラフルだった。
END
え?
この、下?
『ここ、なんで鍵かかってんの』
「ちょうど前の住人が退去したばっかで空いてるし、会社近いし。実家にあんま、居たくなくて」
は?
じゃ、じゃあ、
『ここ、誰も住んでません』
『いや、そんなはずは……』
『ほんとです。空き家ですよ』
『いや、でも』
あのやりとりは? なんだったのよ!
ぽりっと頭を掻いた順は、口を半開きにして放心するわたしを、上目遣いでちらりと見た。
「まあそんな、のっぴきならない? 事情で?」
なぜに半疑問形?
それに。
『まじ? 挨拶に来ねーな』
とか言ってたじゃん!
なんだよ、あれ。
まじ白白しいな!
「じ。自分ちだったのかよ! 厄介な酔っ払いだな!」
「いやいやいや、あの頃ちょっと落ち込んでて飲み過ぎたのはたしかだけど、じいちゃんが鍵開けて荷物も運んどいたから勝手に使えっつーからそのつもりでだな!」
「……」
「奈津、聞いてる? おい無視すんな!」
ちょっとまだどう受け止めたらいいのかよくわからないから、一週間くらいシカトしとこうかな。
なぁんてよぎったけど、やめといた。
だって、なんかいろいろ胸のすく思いだったから。
それに嬉しくて。
順が近くに、すぐそばにいてくれるから、さ。
手を伸ばしてみたかった。
「わたし」
俯いていた顔をじりじり上げる。
昭和レトロなボロアパートと、薄いグレーの用足りないかけ布団と、ひかるさんのお古のコタツと。
「順のことが、好きなんだ」
穏やかに息を整えて言ったら、やたら得心顔の順の表情がとても明るく、鮮やかに見えた。
今までくすんでた視界が、まるで星が降ってきたみたいにキラキラと、輝いて。
わたしの世界がカラフルだった。
END