カラフル
「俺、体が冷えきってんのかな。寒気がする。インフルかな」
「熱計ってみる?」
「んー」
「インフルだと発熱してすぐ病院行っても正確にはわかんないんだよねぇ」
「奈津って無駄に物知りだよな」


テレビ台の隣にあるカラーボックスの一番上に手を伸ばし、わたしは100円ショップで買った小物入れの引き出しのなかから体温計を取り出した。


「熱があっても、もしインフルだったら市販の解熱剤飲まない方がいいかもだね」


ぶつぶつ言いながら順に手渡そうとすると、


「それより風呂沸かしてよ。ちゃんと入浴剤入れてね、柚子のやつ」


わたしは読みかけの漫画を太ももにのせ、ペラペラ開いた。


「入りたかったら自分でやれ」
「冷てーなぁ。俺、コタツ持ってたからもう手が痛くて痛くて」
「ほんとに熱あんの? 風呂なんて入って大丈夫なの?」
「確かめてみる?」


は? と口をぽかんと開けたわたしの腕を、順が掴んだ。
そしてとても首尾よく、なめらかなそつのない動きで抱き寄せる。

まったく予告もなかったもんだから、わたしはされるがまま、引っ張られた体はたちまち順の上。

至近距離で真っ直ぐに見つめ、順は眩しそうに目を細める。きょとんとしたわたしを可笑しそうに、口端を緩めた。


「床でヤッたら響くかな?」


よっこいせ、と半身を起こし、今度はわたしが下になるようにこれまたスムーズに体を横向きに回転させた。
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