カラフル
その際後頭部をしっかり、床にぶつけないよう手のひらで押さえてくれるあたり。
女性関係の豊富さを思い知る。

順の手のひらは、繊細なのに安定感がある。
まるで、とても高級なマスクメロンを決して落とさんと、丁寧に扱う所作だからわたしは、胸の奥をきゅんと軋ませながらも、その高揚を相手に気づかれぬように注意深く低めの声で答える。


「下の部屋、誰か住んでるみたい。所長が、もう埋まったって言ってた。っていうか、手が痛かったんじゃないの?」
「まじ? 挨拶に来ねーな」
「最近の人はそんなもんだよ。若い、忙しい人なんじゃない? きっと」


わたしは目を伏せ、抑揚なく答えた。

きっと、こんなボロっちいアパートは間借りのつもりで、仮の住まいで。どうせすぐ出て行くんだから他人とのコミニュケーションなんて希薄で上等って感じなんじゃない?

順も、そうでしょ?


「そうかもな」


さして興味もなさげに、順は呟いた。


「んじゃ、近所迷惑にならないようにしなきゃ、な」


唇が触れ合う距離で、口ごもらせてそう言って、わたしがいたずらっ子みたいにぴくりと微動した順の眉毛とか、耳たぶの裏を撫でるように触れた順の指先の温度とかを確認してるうちに、深いキスが落とされる。

コタツのなかで足を開くのはとても窮屈だった。
足がもがき、吐息が漏れる。

声を押し殺してると、悪いことをしてるみたいだった。
わたしの体のなかも、コタツみたいに熱をおび、熱くなってくる。

上気した頬が、温かいと言っている。
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