カラフル
わたしは半年前に七年間勤めた会社を辞め、不動産屋がやってる清掃員派遣所でバイトを始めた。
仕事は今日みたいに、退去した部屋の清掃のときもあれば、不動産屋が所有するアパートに入居している方からの依頼で掃除したり、雑用したりすることもある。

バイトは常に募集中なんだけど、長く続けてくれる人がなかなかいない。
今はわたしと氷野ちゃんのほかに、外国人がふたり、おじさんがひとり。

わたしは好きだけどな、この仕事。
汚れが落ちてどんどん綺麗になって、部屋の空気も変わっていってスッキリするし。


「うげ、ネイルが剥がれかけてるぅ」


モップを壁に立てかけた氷野ちゃんは、手袋を脱いで泣きそうな声を上げた。
もはや仕事道具はそっちのけで、爪に釘付けである。

こんな調子でも、前の職場に比べたら対人関係のストレスなんて些末なものだった。

わたしたちは仕事が終わると会社の軽自動車で事務所に戻った。
掃除道具を片付けて、洗剤を補給したりモップを綺麗に洗ったりする。
明日のために。


「お疲れ様でした」
「お先しまーす」


一日の仕事が終わって、すっかり窓の外は暗くなり、帰ろうとしたとき。


「奈津美ちゃん、ちょっといい?」


デスクで事務仕事をしていた所長に呼び止められた。
同世代なら、もうとっくにご隠居しててもおかしくない年代である所長は、柔和に微笑んで手招きしている。


「はい?」
「明日なんだけど、奥瀬さんとこ、頼めないかな?」


弱ったように眉を下げ、所長は窺うような視線をこちらに寄越した。
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