わたしを光へ。


月を見つめていると、頬に伝う涙。



気づかないうちに涙が溢れていた。


「は…?」


どうして涙が流れているのか。


苦しい。


私はそれを拭うこともせずに、しばらく月を眺めていた。


「あ…、」


横から聞こえた声。


目に溜まった涙を拭って、声がした方を見ると、一人の男がいた。


その人はすでに私に背を向けて歩き出していて、誰だかは分からない。


だけど私はその人をどこかで見たことがあるような、そんな気がしていた。


その人が完全に私から見えなくなるころ、私もその人とは反対方向に歩き出し、帰路へ着いた。


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