その視界を彩るもの
あたしって何でこういう目にばっかり遭うんだろう。
日頃の行いが悪い所為とか?そんな、あたしを言うならもっと素行の悪い人だって居ると思う。
でもこういう風に女の子を引き摺るってことは、こういう男が「不良」って呼ばれるんだろうし。
だったら、この「不良」男は一体どんな目に遭っているって言うのか。
結局のところ、単にあたしの運が無いだけなんじゃないだろうか。
「……、い………」
そう考えるとあたしってマジで損な役回りだと思う。
もしもあたしがマッチョで屈強のプロレスラーだったら、こんな男一瞬でとっちめてやるのに!
……完全に自分の世界を作り上げていたあたしは、人っ子一人居ない路地に連れ込まれたことにも、ずっと大声で男があたしに何やら声音を向かわせていることにも全く以て気付くことは無くて。
「―――おいって言ってるだろ!!!」
「うるさい!!!」
訝しげに眉根を寄せた男からの拘束が解かれたことを好い事に、ぐいっと身を引き剥がして思い切り突き飛ばした。
そう。………思い切り突き飛ばした。大事なことだから二回言うね。
「………このアマ………」
ゆらりと立ち上がった男を見上げ―――ることは、残念ながら無かった。だって見上げるほどの身長では無かったから。
相変わらず鼓膜を揺らすのは中性的な声音。
そして目の前であたしに向かってガンを付ける一人の男……って言うか、少年?
ずっとあたしの背後にまわっていた少年の風貌。頭からその爪先まで無遠慮にジっと見つめた。
ちょっと、あたしコイツにここまで連れ込まれたの?マジ?
「………ダレ、あんた」
呆然と口からこぼれた疑問が、他に誰も居ないこの場所の空気にすうっと溶けた。