その視界を彩るもの






あたしが口にしたのは至極当然の疑問だったと思う。

だって、それを証拠に相手の少年は見る目明らかに口ごもったから。

突き飛ばされたことで叩き付けられたお尻が痛いのか、両手でちょっと摩っているようにも見えた。


でも、そんなの知らないし。

ぶっちゃけあたしをこんな路地裏に連れ込んだこの少年に非があるのは、疑いようも無い訳だし。





「なに、あんた誰。あたしになんの用」




だから、可愛いとか思ったら駄目なんだってば。

背後から口許を覆われて。あの日のフラッシュバックに吐き気すら催したんだから、何もあたしが譲歩してやる必要なんてこれっぽっちも無いんだから。







その年端のいかない風貌に拍子抜けしたことは事実。けれど、それをおくびにも出さない表情を繕ってあたしは尚も言葉を吐き出してやった。




「…………」

「こんなことしてタダで済むと思ってんの?」




腕を組んで仁王立ちし、眼光鋭く相手の少年を睨め付けた刹那のこと。















『――――やっと、見付けた……!』

「ッ、!」





ぐいっ、と腕を背後から引っ張られる。前触れ無い行動、そしてあたし自身が全く以て予測していなかった所為で、どっしり構えていた筈の体勢が呆気なく崩れてしまって。

気付いたときには、鼻先を掠める覚えのあるフレグランスが存在を主張していた。








「……イサゾー……」




見上げた先に映り込む奴の顔。と言っても、後方からすっぽりと覆われている現状。

従って、奴の顎が視界の大半を占める訳で。その表情は日頃の何倍も険しく、放たれる雰囲気は恐ろしいほど研ぎ澄まされていて。






憤怒の思いを顕わにするその姿が少し意外で、あたしは思わず目を丸くした。







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