その視界を彩るもの






痛いほどに掴まれる腕に、「離して」と言おうと思っていたけれど、できなかった。

あたしなんか一瞬で黙らせてしまうほど圧倒的な威圧が、何時もの柔なイサゾーを連れ去ってしまった様に感じてしまって。



そんなイサゾーはと言うと。先ほど強い力であたしを引き寄せたにも関わらず、その視線を例の少年に向かわせていて。

沈黙を挿みながらも、鋭過ぎるほどの眼光を帯びた眸で相手の少年を牽制する。




「………」





そのとき、ふと脳裏に一筋の思考が差し込んだ。

イサゾーは暴走族。それを知っている人間は多いって言ってた。

と言うことは、もしかしてあの少年は敵?……そうだよ、そうとしか考えられない。

だって、もしもあたしの考えが当たっていればイサゾーの今の表情にだって説明が付く。






悶々と思考を巡らせて一度イサゾーを見上げ、絡むことのない視線を回収し今度は向こうの少年へとそれを投げ掛ける。

するとタイミング良く搗ち合ったそれ。あたしが顔を顰める前に思い切り嫌そうな表情を浮かべた少年を前に、「敵うんぬん」ということを抜きにしてもムッと頬を膨らませてしまう。



おいお前、なんだその態度。

明らかに年上なあたしに対してその生意気な態度は何なんだ少年!






消化しきれない苛立ちを抱え白目を剥きそうになるけれど、ここは耐えろあたし。

ぶるぶると拳を震わせて感情を抑え込もうと躍起になるものの。


――――次の瞬間に鼓膜を揺らした中性的な、少年の声音に思わず耳を疑った。










「おい柳。なんなんだオマエ、《天龍》バカにしてんのか」

『あ?』







勿論頭上で低く唸りを上げたイサゾーにも驚いたけれど。

それよりもまず、少年が放った台詞の内容に理解が及ばない。……えっと、どういうこと?








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