その視界を彩るもの
眉根を寄せてその内容を反芻してみる。
てんりゅう……《天龍》って確か、イサゾーが身を置いている暴走族の名前だよね?
それをバカにしてるのかって言った少年。敵にしてはちぐはぐな言動に首を傾げて思案に暮れていれば、間を置かずに反論し始めたイサゾーに再度意識を持っていかれる。
『バカにしてんのはテメェだろうが。一般人には手ぇ出さないのがナツキの方針だって知ってんだろ』
「俺は別に"手を出した"ワケじゃないし。柳なんかに纏わり付く女がどんなもんか見定めに来ただけだよ」
『《3》明け渡した腹いせってか?とんでもねぇガキだな』
まだまだ慣れることのない、イサゾーの「スイッチオン」バージョン。
思い切り眉根を寄せて鋭い視線を放ち、極寒を思わせるほどの低音が響きとなってあたしの身体にも振動を与える。
イサゾーはあたしのことを、相手の少年から隠そうとしているのかもしれない。
腕で覆われるように包まれているせいで、体温がぐんと上昇したことを自覚した。
柔なフレグランス。「イサゾー」だと確信を得ることのできるその匂いが、あたしを安心へと誘ってくれる。
心中穏やかに移ろっていく此方とは対照的に、相手の少年に尚も噛み付くイサゾーのボルテージは面白いほどぐんぐん上がっていて。
二人が尚も低い声音で威嚇し合っていたのは分かる。その内容までは解らないけれど。
ただ、その会話の中にも《転機》は必ず存在する訳で。
「―――そんなケバい女傍に置くなんて、悪いけど柳には幻滅したよ」
ただ、この時の"其れ"は少年からその言葉が放たれた瞬間だったってこと。