その視界を彩るもの
「………イサゾー?」
ピタリ、微動だにしなくなってしまったイサゾー。
その眸は瞬きすらしない。だから、何とか覚醒させようと眼前でひらひらと指先を泳がせていた。
一応言っておくと、その少年の言葉自体は然してショックでも何でもなかった。あたし自身は。
だってケバいのなんて当のあたしが一番良く理解している訳だし。だって、メイク大好きだし。
相手の少年が「ケバい女」が嫌いなのか何なのか知らないけれど、別に興味無い。
ただ、反してイサゾーは笑って流せる心境じゃ居られなかったみたいで。
『ウイごめん、ちょっと目閉じてて』
「えっ、!?」
『すぐ終わる』
あたしの耳元で、他には聞こえないほど小声でそう告げたあと直ぐに。
その手のひらをコッチの瞼に添えて、強制的にシャットダウンさせるイサゾー。
何がなんだか判らない状況で、でも、あたしが目を開けている間はきっと奴の手が離れることは無いから。
不服ながらもスッと瞼を下ろす。すると、間髪を容れずにイサゾーの手が離れ流れる空気が肌を刺した。
そして数秒も置かずに、身体を包んでいたイサゾーの体温から解放されたことを知る。
好奇心ばかりが膨れたあたしは瞼を開こうとしたけれど、
『二度と生意気なクチきけねぇツラにしてやるよ』
「なに、一端にヒーローのつもり?バカじゃないの?俺は本当のこと言っただけなんだけど」
『あ?』
「どうせ周りで媚売ってきた女の内の一人だろ?あのさ、そろそろ目ぇ覚ましたら?」
『………』
それを許さないほど界隈を侵し始めた不穏な空気に、無意識の内に強く瞼を抑え込む。
さすがにその会話の内容が指すのが「あたし」だって、気付いてしまったから。