その視界を彩るもの
最後の分かれ道に差し掛かる。
昇降口か、階段か。当然あたしの背後を追ってくる彼女たちは昇降口に向かうと思っているだろう。
だって、今までずっとそうだったし。
彼女らはイサゾーに近付きたいが為にあたしの後ろに付いている訳だし。
だから此処で当のあたしが階段を駆け上るなんて、誰も予測すらしていなかったんだと思う。
「えッ!?」
「な、なんで!?」
余りに意表を突かれたせいか、目が点になった彼女たちは驚きにそんな声を上げている。
その瞬間にもあたしは階段全てをのぼり終え、そのまま休む暇なく廊下を走り抜けていく。
履き潰した上履きが床と擦れて「きゅっ」と鳴くたびに、解放感に任せて気持ちが軽くなっていくのを感じた。
* * *
暫く走ったせいで息が上がる。上下する肩を落ち着かせるように深く呼吸をおとしたあたしは、遠回りにはなったけれど過疎な裏門に向かっていた。
鉄製の柵に手を掛け、思い切り身を乗り出す。
イサゾーには「裏門から出る。駅で合流しよ」と簡素なメッセを送っておいた。
アスファルトに上履きが着いた瞬間、当然ながらローファーの存在を思い出したけれど。
でも今更あの場所に戻る気にはなれなくて、酷く不釣り合いな恰好は承知の上で歩を進め始めた。
まあ、裸足よりはマシだし。
イサゾーに頼むにしたって、アイツあたしの下駄箱の位置なんか知らないだろうし。
「(………あーあ)」
ちょっと、これはイサゾーと要相談だなあ。
迎えに来てくれるのは嬉しいけれど、兎に角場所を何とかしないと。せめて、近くの公園とか。