その視界を彩るもの
女の子たちのことなんて気にせず、いつも通りにイサゾーのところへ行っていれば良かったんだ。
今更後悔したって遅いのに。
「………さ、ぞー……」
誰のものかも判らない掌に吸い込まれた小さな叫び。
呆気ないほど瞬間的に消え去ってしまったそれは、未だあたしの中に存在していた希望に固執する気持ちに似ていた。
――――筈、だったんだけれど
『ウイッ!!!!』
突如として鼓膜を大仰にも揺るがした声音。それは、閉じかけていた瞳を持ち上げる切っ掛けとしては充分過ぎるもので。
あたしの願望が成した妄想なんじゃないかって疑った。
だって、イサゾーには「駅で合流」ってメッセを送った筈だったから。
『おいコラ!!逃げんのかテメェッ!!!』
「………ッ! ゲホッ、ゴホゴホッ」
『ウイ大丈夫!?』
イサゾーが一本向こうの通りから憤怒の形相で現れたその刹那。
一瞬覆われた手のひらに力が込められたと思ったら、次の瞬間にはあたしは解放されたらしく。
今まで吸えなかった酸素を取り込もうと、無意識の内に身体は躍起になって呼吸を繰り返す。
だけれど、そんなあたしの様子を目の当たりにしたイサゾーの反応は意外なものだった。
『ウイちょっと待って、そんなに荒く呼吸したら……!』
「はっ、はっ、」
『過呼吸になっちゃ――』
不意に、意識が遠のくのを感じた。
必死に何かを叫ぶイサゾーの声も耳に届かなくなってくる。
何がなんなのか全く解らない状況のまま、あたしは完全に意識を手放したらしかった。