その視界を彩るもの
- unknown side -
派手な化粧。露出度の高いファッション。そして煌びやかなネオンに踊り狂う若い男女。
普段ならキツいと言われる香水の匂いだって、この場所に紛れ込めば嘘みたいに目立たなくなる。
此処は好きだ。周りが同じような人間ばかりだし、「あたし」っていう存在が普段はどんなモノであっても受け入れてくれる。
「よぉ。遅かったな?」
「……まーね。いつものくれる?」
「ハイハイ」
呆れたようにそう口にした男は吹かしていた煙草を口許から抜き取るなり灰皿に押し付け、隻手をあげてカウンターの奥に引っ込んでいく。
そんな名前も知らない人間の後ろ姿を、ただジっと見つめていた。
途端にスマホのバイブが着信を告げてくる。
直ぐに指先を滑らせてロックを解除し耳元に宛がえば、予想した通りの男が矢継ぎ早に荒げた台詞を向けてきた。
"――オイ!どういうことだよ!話が違うじゃねぇか!"
「あら、そう?」
"てめぇ……今すぐテメェを標的にすることだってできんだぞ?あァ!?"
「短気なオトコって嫌ねー。興奮しないでよ」
"なんで男が居るんだよ!?あのとき裏門にはあの女しかいないって――"
「計算外だったのよ」
そう告げる彼女の"普段"を知る者は誰も居ない。この場所――今身を置くクラブには、誰も。
普段とはテイストの違う服装。艶やかな香水。一際目を引く甚三紅のルージュ。
特に意味はなくとも一度は振り返ってしまう。
数多くの人間を引きつけてしまうのは、その煌びやかな外見故か、それとも―――
「約束通り金は払うわ。また、お願いね」
まだまだ夜は、長い。