その視界を彩るもの
* * *
息を呑んでイサゾーを見つめた。どうしてそんなこと言うの。
心の中で反論に似た強い感情が増え続けていくけれど、それを口に出すことはできない。
「……イサゾー……?」
だって、あたしはこいつに嫌われたくない。
こんなときに何時もの気兼ねない空気を泳げたらどんなに気が楽だっただろう。
目をしばたかせて目の前のヤツを見据える。どのくらい時間が経ったのかも判らない。
馬鹿みたいにか細く奴の名を口にしたあたしを一瞥した、イサゾーは。
『……なーんて。驚いた?』
「は……?」
『ごめん、ちょっとアンタをからかってみただけよ』
「なに…言って、」
『あながちウソでもないんだけど』
ヒタリ、冷たい何かが滑るようにあたしの背筋をおりていく。
そんな感覚を催しておそるおそるイサゾーの顔を視界におさめたけれど、その思ってもみない表情にあたしは思い切り意表を突かれた。
『こんなにアンタが大事になるなんて思わなかったから。だとしても、ダチの中で即答できるほど優先する人間になるとは思わなくて』
「……? ごめん、易しく言って」
『良いのよ解らなくて。それくらいがちょうどいいの』
目を丸くして比較的穏やかな笑みを浮かべるイサゾーを見つめた。
そんなあたしの視線を受けて、奴は一層その笑みを深いものにする。
『自分よりも、環境よりも優先したい人間になるとは思わなかったのよ。それだけ』
「環境?」
『そう。だから最初から判っていたら、アンタに声なんて掛けなかったと思うわ』
それはきっと、後悔じゃなくて。