その視界を彩るもの




ほぼ時間の差がなく勇蔵と梢が生まれたことで、勇は働き詰めの生活を止む無くされた。

そして朱里に関して言えば、急に二人の母親になったことで胸の奥底に沈んでいたストイック精神が再び戻り始めていた。

母親としての自覚と、責任を持つがゆえのことだった。




「それ、違うと思うんだけど」




元来朱里のそういうところを少し苦手に感じていた勇からすれば、今まで大人しく此方の見解に合わせてくれていた彼女の態度が少しずつ変化していくことは目の覆いたくなる現実で。

毎日家と会社の往復。そして家では朱里の育児疲れによる小言が待っている。

朱里は朱里で会社から帰宅した勇が「疲れた」とうわ言のように重ねる姿に嫌気が差すばかり。

疲れているのは、こっちだって同じだというのに。



最初のうちは限りなく円満な家庭だった。

しかしながら、子どもを持ち個々の責任やプライドが重さを増したことで軋轢を生じ始めて。







「あの……柳さんいらっしゃいますか?」




そんなときに勇の前に現れたのが、新しいクライアントの女性だった。




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