その視界を彩るもの
それからも両親の今にも破綻しそうな関係は続いた。
段々と心身ともに成長していく勇蔵の目には、その姿は「子どものため」と言いつつも世間体を気にする男女にしか映らなかった。
相変わらず得体も知れない女に入れ込む勇と、そんな夫の姿を見ても見ぬ振りをする朱里。
この頃すでに勇蔵は中学1年生となり、妹の梢は小学6年生だった。
「お父さーん!」
胸中どろどろに疑いの芽ばかりが生い茂る勇蔵に反し、梢は尚も両親にベタベタだった。
自分たち子どもの前では尚も穏和な笑みを浮かべる二人を見ても、「頑張ってくれているんだな」なんてデキた所感は抱く筈も無く。
「ここまでくれば名演技だ」と。どこか冷めた眼で家族の姿を眸に映すようになっていた。
知らなければ幸せだったかもしれない。
けれど、知ってしまった身としては何も知らずに無邪気にはしゃぐ妹の姿はどこか滑稽だった。
「いさにい!勇兄ー」
『なに?』
それでも、こんな思いを妹に味わって欲しいなんて感情が湧くことは無かった。
それどころか、どうにかして阻止したいとすら考えた。"両親の偽り"が露見してしまうことを。
妹と笑い合う勇蔵。そんな子ども二人を愛しそうに見つめる朱里と勇。
その眼差しがニセモノなんじゃないかとまでは言わない。けれど、妹だけは何も知らずに過ごして欲しいと心底願った。
―――そんな少年の願いも叶うことはなく、数年後に最悪の形で妹に降りかかることになる