その視界を彩るもの
* * *
ある日の放課後、梢は通っている学習塾までの道のりを歩いていた。
界隈を包むのは茜色の陽の光。既に沈み始めているせいか心なしか暗さすら感じてしまう。
晴れて中学校へと進んだ梢の毎日は充実していた。
背中にはリュックタイプのスクールバッグ。その右肩には余り重くないサブバッグが掛けられていて。
耳孔を塞ぐのは宝石をモチーフにした流行りのイヤホン。
お気に入りのアーティストの曲を選び上機嫌に脚を運んでいた彼女だが、ふと持ち上げた視線の先で捉えた光景に強い衝撃を受けることになる。
「……ッ、え……?」
自らも気付かない内にこぼれ落ちた声音。
しかしながら、震えを多分に含んだそれが他の人間の耳に入ることは無かった。
目を丸くして視線を投げる。
輝くネオンが目に突き刺さる。鋭い痛みと共に網膜に焼き付いていく。
よく知った人間の姿。知らない女の人。知っている、男のひと。
ぐるぐるぐるぐる、忙しなく脳を焦燥ばかりが駆け抜けていく。
朝と同じスーツ姿。その腕に絡み付くのは知らない女の人。
―――お母さんじゃなくて、見たこともない、女の人
「………お父、さん……?」
自分の心臓がまるで違うヒトのモノみたいに、気持ち悪い鼓動を繰り返して速さを増す。