その視界を彩るもの




* * *





『―――自分の親のそういう現場見ちゃうのって、結構ダメージでかいのよ。想像以上にね』

「………」

『妹はそれまで父にベッタリだったし、尚更そう。それが親だって信じたくないって気持ちは消えなくても、立ち上がろうとすれば目の前の「事実」がまた自分を追い詰めてくるの』



視線を上げてそう呟くイサゾーの横顔。

それはイサゾー本人じゃなく、妹の梢ちゃんの記憶な筈なのに。


まるで自らの「傷」を辿っているような表情だった。

その眉間に刻まれた複数のシワが意味するもの。イサゾーが梢ちゃんを大切に想っている証。






『そこで家に戻るなり、無理だろうけど塾に行くなりしておけば……あんなことにはならなかったのにね』






それはきっと、過去を悔やむ「兄」としてのイサゾーの姿だったから。



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