その視界を彩るもの




* * *




それまでの気迫が嘘のように歩みを止めてしまった梢は、道ゆく人々に怪訝な眼差しを送られ続けた。

意識は朧げ。そのときのことを覚えているかと聞かれたら、彼女はきっと首を横に振るだろう。


ただ、本能的に人の波から遠ざかろうとしていたのだ。

沢山の視線を向けられることが辛かったから。

ごちゃごちゃに散らかってしまっている思考をなんとか整理してしまいたかったから。


―――できることなら、今し方自分の目で見た光景を忘れ去ってしまいたかったから





ゆらゆらと揺れる視界には梢自身のローファーが映り込む。

中学に入ってすぐに、父が買ってくれたもの。

そんな些細なことでも思い起こしてしまうほど、彼女の中では父の存在が大きすぎて。






覚束ない足取りで交差点から遠ざかる梢は気付かなかった。

茜色に染まっていた筈の界隈には既に夜の帳が下りており、点在する街灯が彼女を頼りなく照らし出していたこと。


自らのサブバッグを掻き抱くようにして顔を埋める。

そんな彼女を背後から見つめる複数の目、目、目。




彼女は未だ気付かない。



―――知らずの内に「行ったら駄目」と何度も言われたネオンの輝く道の、更に奥に来てしまったことに





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