その視界を彩るもの
何か嫌な予感がする――
そんな思いと共に振り向いた梢の口許を覆うのは大きな手。全く知らない男の手。
その瞬間に目を見開く。梢が見た光景は、思わず自らの目を疑いたくなるものだった。
沢山の目が自分を見ている。まるで、品定めでもしているかのように。
「……っ、」
「震えちゃって。かーわいー」
後ずさるけれど直ぐに背がコンクリート壁に付いてしまう。
戦慄した彼女の脚からは力が抜け、がくがくと震え始める。
頼りなく彼女を照らしていた街灯は薄気味悪さを湛えて、今では複数の男たちを闇夜から浮かばせていた。
「――――」
恐怖のあまり声が出なかったんじゃない。
確かに恐かった。けれど、本気で叫号を上げようとしたなら出来た筈だった。
助けを呼ぼうとしたなら、出来た筈だった。
こういう場面に遭遇したことが無かった梢が頼る人物なんて一人しかいない。
大好きな父。今までの彼女なら迷い無く父を大声で呼んでいただろう。
―――けれど、その瞬間に梢の脳裏は先ほどのウソみたいな光景に埋め尽くされてしまったから