その視界を彩るもの




* * *





『本当にあの子が欲したのは、他の誰でもなく父だったの。だから、アタシじゃ駄目だった』

「………イサゾーが駆け付けてあげたんだ」

『間に合わなかったわ』

「え?」

『事後だった。アタシが着いたときにはもう男たちの姿は無くて、残されたのはボロボロの梢だけだった』



思わず目を見開いてイサゾーを見据えた。

視界が捉えた中でイサゾーは深く瞑目し、細く息を吐き出していた。その眉間には複数のシワが浮かんでいる。



あたしに言えることなんて何一つ存在しなかった。イサゾーは何か言葉を掛けられることを望んでいる訳じゃない。

過去における自らの行動を悔いているのは早々に窺い知れた。





『梢はあれから、完全に"男"が駄目になったのよ。アタシがこんなことしてるのもそれがキッカケ』

「………」

『それでも、あの子は何も喋ろうとしないわ。ここまで真実を暴くのにどれほど骨が折れたか』





そこで気付く。イサゾーは、梢ちゃんから真実を聞いた訳じゃない―――?







『この世界に入れば、手っ取り早く情報が耳に入るって踏んだのよ。それで、あの子が襲われたときのことを人づてにでも聞いている奴等とっちめてるってワケ』




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