その視界を彩るもの
/黒髪のセーラー美少女
「初ー!お風呂入っちゃいなさいってー」
「はーい!今行くから!」
「そう言ってすぐ来たためしなんて無いじゃないの!」
「あーもー、うるっさいなー」
最後の文句だけは小声で留めておく。母の耳に直接入ったら、それはそれで煩いし。
そんな中でも思考を占拠するのは数時間前のこと。
イサゾーから聞いた、梢ちゃんの話に他ならなくて。
あの後さらに、奴は言っていた。
『これはアタシの自己満足に過ぎないんだけど。メイク好きなのよ、あの子』
「……メイク?じゃあ、もしかして」
『そうよ。多分アンタが思ってる通り。あのメイクボックスの中身が全部そういうこと』
そう言葉にした奴が指差したのは、寂寞感漂う部屋の隅に置かれた黒い大きなメイクボックスで。
イサゾーはイサゾーなりに、男嫌いになった梢ちゃんと距離を詰めようと必死だった。
それまで普通の男として過ごしてきただろうに、オネエ言葉まで使うようになって。
梢ちゃんが好きだっていうメイク道具だって、イサゾーが自分で集めるのなんて恥ずかしいに決まってる。
「………」
アイツが梢ちゃんに折角集めたメイク道具を渡せる日は、果たしてやってくるのだろうか。