その視界を彩るもの




翌朝。色々なことに思考を及ばせていたせいで余り眠れず、しかしながらメイク時間を削るのだけは嫌だったので意地の早起きをしたのは良いけれど。



「おわ、ウイはよー」

「……おはよ」

「え、マジでクマやばくね?なになに?昨夜は激しかったんですかぁー」



ケラケラと笑み混じりに茶化してくるユカリ。その行動ですら寝不足の頭には中々刺激的で、まるで短気な人間にでもなった気分だと感じた。

こう、直ぐにイラッとくる。


だから返事をしない代わりに手を掛けていた教室の扉を大袈裟に音を立てて閉めてやった。

その瞬間静寂に支配された狭い空間からは幾つもの目があたしを見据えたけれど、すぐに何事も無かったかのように自分たちの会話へと戻っていく。





「ちょ、ウイどしたん?冗談だってぇ」

「知ってる」

「キレた?ごめんね?マジ、謝るから……」





不安さを前面に押し出した声音でそう声を伸ばしてくるユカリ。その視線を避けるようにして椅子を引いたあたしだったけれど、そこにきて漸く顔を上げ彼女を視界に捉える。

真正面から見据えた中であたしを見上げるユカリは、思いの外真剣な面持ちだったから目を丸くした。



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