その視界を彩るもの
そのときだった。
「………あ」
あたしがその異変に気付いた瞬間。
やってしまった。やってしまったのだ、自らの家に進んでいると思い込んでいたのにこの光景は―――……イサゾーの家に、向かってる。
降りる駅を間違ったんだ。にも関わらず、眠さに負けてだらだら歩を進めていたから気付かなかった。
気付いて直ぐに脚をその場に縫い留めた。どうしよう、どうせだしちょっと寄って行こうかな。
そんなことを思いながら何気なく視線をイサゾーの住むアパートへと放り投げた、その瞬間のこと。
「っ、」
視界に映り込んだのは少女の横顔。あどけなさの中にも見覚えのある顔のパーツが目を引いた。
恐らく見たのは今が初めて。けれど、昨日あの話をイサゾーから聞いたばかりのあたしの中で勘が鋭く働いた。
一心にその瞳をイサゾーの部屋に向ける少女は何を思うのか。
心配だと言いたげに下げられた眉がその心境を代弁しているように思えて仕方無くて。
基本"他人"には無関心なあたしが行動を起こしたのは、
「―――梢、ちゃん……?」
彼女は最早その括りに該当しないと踏んだから、なんじゃないかって。