その視界を彩るもの
カランカラン、陳腐なベルが柔に鼓膜を擽って踊る。
そんな出迎えを受けた梢ちゃんとあたしは、あの後イサゾー宅には寄らず最寄りの喫茶店に足を運んできていた。
「いきなりごめんね……」
ウエイトレスに案内されて腰を下ろし、開口一番にそうこぼす。
そんなあたしの様子を見た梢ちゃんは、ただでさえ大きい瞳を更に見開いてあたしを見つめた。
そりゃそうだ。いきなり道端で知りもしないギャルに声掛けられたらビビるって、誰でも。
でも目にした瞬間、驚くことに「このまま通りすぎる」という選択肢はあたしの中に無くて。
どういう言葉で声を掛けようか必死に思案した。結局はあんな風になってしまったけれど。
イサゾーは梢ちゃんの話を共有する唯一の「他人」にあたしを選んでくれた。
家に帰ってからもずっと考えてた。あたしはそれに見合った人間なのかなって。
ううん、今のままじゃ確実にダメだ。イサゾーに頼られるに値する人間になるにはどうしたら良いか、必死に無い頭を働かせて思案したんだ。
その答えは残念ながらまだ、出ていないけれど。
「そんな、私も嬉しいんです!ずっと勇兄の彼女さんにお会いしたいな、って思ってたので…!」
「(あたし彼女じゃないんだけどな……)」
根本的なところで勘違いしている梢ちゃんが余りに嬉しそうな表情を浮かべるから、事実を口にするタイミングを失ってしまった。
……まあいい、のかな?どうせアカネにも嘘吐いたしイサゾーだって知ってるし……。