その視界を彩るもの
梢ちゃんは余程イサゾーの近況を知りたかったらしく、この喫茶店への立ち寄りを提案したのがあたしだってことを忘れてしまいそうなほど怒涛の質問劇を披露した。
それにしても彼女、終始笑顔で。
イサゾーの話を聞いてからはずっと闇を抱えた少女を脳裏に思い描いていたから、想像とのギャップに今度はあたしが目を丸くする番だった。
「勇兄の載ってる雑誌って勢いで全部買っちゃうんです!」
「あ、それわかる!手元に置いておきたくなっちゃうんだよね」
「そうですそうです!初さんが話しやすい人で本当に良かったぁ……」
最初こそ表情も固く、どこか怯えた空気さえ纏っていた梢ちゃんだったけれど。
今ではすっかり影を潜め、相好を崩してあたしをその視界に映していた。
あたしたちの手元にあるグラスが汗の量を増していることから見て、相当な時間が経過したように思う。
それにしても気になったのが、
「梢ちゃん」
「はい?」
「あのさ……なんであたしだって、思ったの?」
主語は無くても通じると思った。
目を見開き暫し口を閉ざした彼女は、逡巡するように瞬きをおとしてから音を紡ぎだす。