その視界を彩るもの
* * *
「梢ちゃん、帰り大丈夫?家まで送るよ?」
「あ、全然大丈夫です!母親が来てくれるみたいなので」
――梢ちゃんは他の女の子と違うから。
過去に負った深い傷はきっとあたしの想像も付かないくらい尾を引いていて、ふとした瞬間に彼女を暗闇に引き摺り込むのだと思う。
気を遣わないほうが無理だから。
まさか梢ちゃんを一人で家に帰す訳にはいかないからそう提案したけれど、スマホを掲げてみせた彼女にそんな隙は無くて。
先回りされちゃったな。こういう他人に気を遣わせない気配りの仕方、本当にイサゾーと良く似ていると思う。
どんなに隔てる溝が深くても、兄妹って根本的なところで通じるものがあるんだなって。
宣言通りお母さんの車に乗って去って行った梢ちゃんを見送りながら、そんなことを思った。
梢ちゃんが、「怒りませんか?」と前置きした後に言ったこと。
「イサゾおおおおおくうううううん」
『ゲッ』
「ゲッってなに、マジ。キレるよ入れてよじゅーう、きゅーう、は」
『わかったから!なんなのアンタ、ホントにその脳内どうなってんのか疑うんだけど』
「あーそんなこと言っていいんだー」