その視界を彩るもの




絶縁に近いイサゾーとの、今の関係について教えてくれた。

でも彼女も諦めていない。だってことある毎にイサゾーの家の近くまで足を運び、この部屋を見つめていた。


踏み出すことができない梢ちゃん。

彼女のためにメイク道具を集めているイサゾー。


似た者同士。強くそう思う。




『ってかアンタ、なんでこんな時間に来るのよ。今日はもう来ないと思ってたのに』

「んー、ちょっとね」

『野暮用?』

「野暮ではないよ。あたしも楽しんじゃったし」



そう言って思い浮かべるのは美少女・梢ちゃんの姿。

思わずにやにやと頬を緩ませるあたしを見て、怪訝さを剥き出しにしたイサゾーはやや引き気味だった。

すっかり通い慣れた玄関に足を踏み入れたあたしは、家主であるイサゾーよりも先に奥の部屋を目指す。

開いた扉。必然的に視界に飛び込んでくる部屋の、隅にある黒いエナメル質のメイクボックス。







「………」

『ウイ?』






今すぐ、それ持って実家に行って梢ちゃんに渡しちゃえばいいのに。

そんな簡単な問題じゃないってことは解ってる。過去にあたしが関わっていた訳じゃないし、当時の出来事を「イサゾーの言葉」で聞いたにすぎないんだってことも。




―――勇兄には私と会ったことも、私から聞いたことも全て内緒にして欲しいんです



嗚呼、上手くいかなくてモヤモヤする。



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