その視界を彩るもの




日頃から追い求めるようにイサゾーをその視界に映していた梢ちゃん。

そんな兄の隣にいつも居るあたし。

梢ちゃんがあの日、あのとき。あたしが声を掛けた瞬間に大きく目を見開いた理由が今なら解る気がする。



「どっかお店入る?あ、でもあたしここらへん土地鑑ないかも……」

「大丈夫ですよ!この駅、実は私の家の最寄りなんです」



にこやかな笑みで表情を彩った梢ちゃん。そんな彼女を見て瞬きを繰り返すあたし。

確かにこの駅を待ち合わせ場所に指定したのは梢ちゃんだ。


てっきり渋谷とかに行って遊ぶんだと思っていたから、気合いを入れて化粧とコーディネイトを施してきた訳で。

カラコンにツケマ、ハニーブラウンの髪をゆるく巻いてサイドに流して。もう冬も間近だから、お気に入りのファッションブランド店のバーゲンで手に入れたコートなんかも羽織っちゃって。

ブーツのヒールだって高くて、「赤文字系」を意識してお洒落してきたあたしと―――






「だから、」






全体的にラフとも呼べる服装で、これぞ「清楚」だと断言できるナチュラルメイクで顔を彩った梢ちゃん。

見れば見るほど点対称なあたしたち。

言葉の先端を紡ぎ始めた梢ちゃんを声もなく見つめ、その続きを待った。






「私の家に行きませんか?初さんに渡したいものがあるんです!」






せっかくお洒落したのに、と沈む気持ちのあと直ぐに。

梢ちゃんの言う「渡したいもの」が気になって二つ返事で了承してしまう自分が居た。


……あたしってば、なんて現金な奴……!



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