その視界を彩るもの
梢ちゃんのお宅は、とあるマンションの一室。
辺りには草木が生い茂っていて、都会とは少し違った景観を傍観者に与えてくれる。
一見して手入れの施されていることが窺えるその場所は、見るひと全てに好印象を与えそうな感じだった。
「ここの、5階なんです」
二人でエレベーターを待ちすがら、頭上で点滅する数字を見つめていたあたしに梢ちゃんからの声が掛かる。
そして眼前で開いた鉄製の扉。
率先して中に入った梢ちゃんに倣ってそのハコへと足を繰り出した。
「お邪魔しまーす」
「どうぞー!」
おずおずとそう述べたあたしに対し、直ぐ様梢ちゃんが笑顔で言葉を向けてくれる。
その様子を見て一度固まるあたし。
と、そんな此方の様子を目にしてか「あっ」と声を上げた彼女は慌てて台詞を後続させた。
「いま誰もいないんです。母親は仕事で……」
しゅんと身を縮めるようにこぼした梢ちゃん。
言葉尻に向かって段々と覇気の薄れていく様子を目の当たりにして、あたしは自分自身の行動を早々悔やんだ訳で。
「そっかー!お土産とか何にも持ってなかったから助かったー」と安堵の息を吐いて見せた。
ちょっと、大仰だったかもしれないけれど。