その視界を彩るもの
でも少し考えてみれば「そうだった」と合点せざるを得ない。
だって、イサゾーが他でもないあたしに話してくれた家族のこと。
お母さんとお父さんがどうなったかなんて、一番良く知っているじゃないか。
「………」
「初さん?」
梢ちゃんから向けられた声音にハッと我に返った。
窓枠から差し込む陽の光。日中特有の暖かさがリビング一杯に広がる中、すでに駆け出していた梢ちゃんが不思議そうに首を傾げていて。
目の前にはリビングの扉。
未だ廊下に身を置いていたあたしは、
「うん。……なんでもない」
―――苦し紛れに取り繕った。
ゆるゆると首を振って後を追うあたしを、梢ちゃんは無邪気に見つめ返す。微笑みを浮かべながら。
そんな表情を向けられてしまっては、胸中で芽生えた罪悪感は急成長を遂げてしまう。
イサゾーの気持ち。梢ちゃんの気持ち。
一番大事なところを見落としていたのは、他でもない自分自身で。
「イサゾーと付き合ってる」なんてウソ、梢ちゃんが喜ぶ筈なんて無いのに。
自分自身の中で言い訳して、善がって。
その笑顔が壊れちゃうかもしれない、とか。
アカネに嘘を吐いたからって梢ちゃんにまで同じウソを吐いて良いワケないのに。
こんな風に思うなら、最初から「友達だよ」って。
イサゾーとは友だちだよって、伝えてあげれば良かった。