その視界を彩るもの
勿論あたしがそんなことを思っているなんて露知らずに居る梢ちゃんは、惜しげもない笑みを飾って誘ってくれるから。
詰まり切った息を吐き出したあたしは、ひやりとした空気に包まれた自分の脚をリビングの中へと向かわせた。
その瞬間に鼻腔を擽ったのは、覚えのある空気の匂い。
「………イサゾーの匂いがする」
「え!?」
決して大きな声で呟いた訳では無いけれど。
勢いよく振り向いた梢ちゃんは大きな瞳を更に見開いていて。
それに気付いたからこそ、もう一度。
深く息を吸い込んで確かめたかった。
「――…うん。やっぱり、イサゾーが今住んでる部屋と同じ匂いだよ」
梢ちゃんの瞳に少しだけ、涙の膜が張った気がした。